デスクトップ環境の選び方と特徴
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そもそもウィンドウマネージャと統合デスクトップ環境の違いは
ウィンドウマネージャはウィンドウの機能を担います。
例えばウィンドウ枠の描画、ウィンドウリサイズ、ライズ、フォーカス、ウィンドウの移動などです。 このような操作はウィンドウマネージャがなければできません。 (あるいはX Window SystemのAPIを利用して行うことができますが、日常的な操作には不便でしょう)。
統合デスクトップ環境はウィンドウの外側を担います。 ファミリーアプリケーションと呼ばれる統一感あるアプリケーションシリーズを提供したり、あるいは統合デスクトップ環境のソフトウェアの一部としてウィンドウの内側を提供したりします。1
一般的なイメージでは「パネルの有無」なのですが、実際はそうではありません。 パネルに相当する機能を内蔵するウィンドウマネージャもありますし、パネル単体のアプリケーション(例えばtint2)やシステムトレイ単体のアプリケーション(例えばtrayer)もあります。
ざっくり選び方から
Linuxerならコード風に書くのが最もわかりやすいかもしれませんね。
if 十分な性能がある
if Macのようにボタンや機能が最小限なのが好き
if 96dpiまたは192dpiからかけ離れてたdpiのディスプレイを使っている
Deepin
else
GNOME
end
elsif 96dpiまたは192dpiからかけ離れてたdpiのディスプレイを使っている
KDE Plasma Workspace | Deepin
elsif 古いWindowsのようなメニュー型UIが好き
Cinnamon | MATE
elsif 高機能で緻密に設定できるものが良い
KDE Plasma Workspace
elsif シンプルでスタイリッシュなものが良い
Deepin
else
Cinnamon
end
elsif core i世代より新しい
Cinnamon | GNOME | Plasma Workspace (minimal)
else
MATE | XFce4 || LXQt | LXDE | Lumina
end
もっと違う選択肢(Enlightenment, twm, fvwm, fvwm crystal, IceWM, Rox, Openbox, Fluxbox, i3, awesome, bspwm, Budgie, Pantheon, Sugar, jwm e.t.c.)が浮かぶ人であれば、おそらくこの記事は必要ないでしょう。
実質、ここに挙げた選択肢があればおおよそ要求は満たせるように思われます。
各デスクトップの特徴
GNOME
特徴
- タッチインターフェイスに向いた最小限のUI
- Mac的なファインダー機能と、ファインダー機能に完全に依存した設計
- タイルは左右のみ。最大化または左右で使う考え方
長所
- ビデオアクセラレーションが利用できれば軽量で高速
- GVFSの高い利便性
- 操作できる箇所が少なく、覚える労力が少ない
- ランチャーはコマンドラインとして利用できる
短所
- 左右にしかタイルせず、大画面で使うにはメリットが薄い
- ディスクが遅いと速度が気になる。SSD向き
- UIが最小限すぎてどこをどう操作すればいいのかわかりにくい
- 設定項目なども少なく好みにカスタマイズする余地に乏しい
- スケーリングが整数倍に限られており、需要の高い1.25倍や1.5倍には対応しないのでHi-DPI環境で不便
- 正しく表示できるGTK3テーマが少ない
KDE Plasma
特徴
- 極めて多彩な機能、細やかな設定が可能
- コンポーネントがかなり細かく分かれており、Plasma Workspace単体なら軽い (全部入れると、特にKDE PIM/Akonadiを入れると重い)
- サードパーティ製ファミリーアプリケーションの数が圧倒的
- メニューはdesktopファイルの検索、ランチャーはより幅広い検索で検索ベース
長所
- 細かに設定可能で好みの環境を作り出せる
- アクティビティやウィジットなどデスクトップそのものを便利に使う機能を搭載
- ディスプレイサイズが設定されている場合GTK+アプリケーションを含め正しくスケーリングされる
- 外部ディスプレイの取り扱いが非常に柔軟。「部分的に重ねる」ということもできる。
- Nvidiaビデオカードを使っている場合にちらつきが発生しにくい
短所
- KDE PIMが重い
- XDG標準を守っておらず、設定がやや面倒
- 初期設定が好みから離れている場合、設定を合わせるのはちょっと大変
- Dolphinの検索メニューはドットディレクトリ内も探してしまうため、「えっ!?」となるようなファイルが出てきて困ることがある
- SFTP接続機能やSSH Agent機能がいまひとつ。KDE WalletやKgpgもGNOME Keyringと比べ使い勝手が悪い
Cinnamon
特徴
- 元はGNOMEベース、現在は独立したデスクトップ環境
- 旧Windows UIを正常進化させたようなUI。 GNOME2とも違う使い勝手
- 基本的には「ポイントを抑えた高機能」路線。Plasmaのように項目数豊富ではないけれど必要とするものはだいたい揃っている
- ウィジット機能も搭載
- Launcherはコマンドライン、CinnamonメニューはDesktopファイルの検索
長所
- 秀逸なスナップとタイリング。Superキーとカーソルで8方向タイリングができるだけでなく、カスタムサイズでスナップ/タイルも可能
- GVFSも利用可能
- ファイルマネージャのNemoが秀逸
- ビデオアクセラレーションで高速
- ランチャーが補完可能
短所
- 一部GNOMEファミリーアプリケーションを利用している部分が残っており、Cinnamonの拡充のためにGNOMEアプリケーションを入れることになる
- 時々設定が不足して困ることがある
- パネルアプレット、ウィジットはあまりメンテナンスされておらず使えないことが多い
- 正しく表示できるGTK3テーマが少ない
- 割とバグがある。特に通知まわりには機能不足やバグが多い
XFce4
特徴
- 現在はGTK2が主。GTK3版は開発中ながら依然としてバグが多い
- 標準パネルはMacのDockを形だけ模倣したようなもの。Windowsのタスクバーに近い形状にして使うのが一般的
- ルートメニューの仕様はUnixウィンドウマネージャの標準的形式。近年はメインメニューとしてWhiskerを使うのが一般的
- 軽量な中では最も自然に使うことができるデスクトップ環境として人気
- ランチャーは履歴機能のみのコマンドライン。Whiskerはdesktopファイル検索あり
長所
- 標準的な機能を一通り備え、設定も豊富
- 8方向タイリングに対応
- XFce4 Terminalは背景透過設定なども細かく設定でき使い勝手が良い
- Mousepadも軽量で使いやすい
短所
- 設定の方法が一定でなく、わかりにくい
- 微妙に不適切な挙動や望ましくない解釈があり、かゆい処に手が届かない
- 軽量ではあるもののビデオアクセラレーションが効かないため、その軽量さが嬉しいケースは非常に少ない
- スケーリングの機能がない
MATE
特徴
- GNOME2から派生したデスクトップ環境
- ほとんどGNOME2そのままであるものの、いくつか現代的な改修を施している
- 負荷的にはXFce4と同程度なので軽量環境を必要とする場合に選択肢になる
長所
- GNOMEアプリケーションに近い機能をもったファミリーアプリケーションもずっと軽量
- GNOME2を使い慣れた人にとっては馴染みあるUI、そうでなくても使いやすいメニューUI
短所
- 完全にメニューベースで、検索機能がないのは現在はやや不便
- 現在では当たり前になっている機能でもあまり揃っていない
- タイリングは4方向のみ
- MATEが登場した初期と比べると、Cinnamonもあることも相まってやや選びにくい
Deepin
特徴
- Solusプロジェクトの一環として開発されているQtベースのデスクトップ
- 非常にスタイリッシュ
- パネル機能はMacのDockによく似たものでまとめられているものの、それ以外はあまりMacぽくはない
- 意外なほど設定は豊富
- スクローリングに慣性が働く。好みは分かれる部分
- タイリングは2方向で、GNOMEと同じく最大化もしくは2つ並べるというスタイル
長所
- 0.25倍単位でのスケーリングが可能
- とにかくスタイリッシュ。GNOMEと比べてアイコンの意味もわかりやすく自然
- タッチデバイスでの使い勝手が割と良い
短所
- 組み込み機能(設定パネルなど)がやや重い。必然的にバッテリー消費も重め
- 大画面での作業には適さない。外部ディスプレイ接続時の設定も不自由
- Alt+F2でドロップダウンターミナルが開く仕様。ちょっと癖が強い
- 設定が反映されないなどの問題がある
Lumina Desktop
特徴
- PC-BSDプロジェクトで開発されているデスクトップ環境
- Qtベースで独立性が高く、依存パッケージも少ない
- ウィンドウマネージャにはFluxboxを使用
長所
- 軽量。仕様リソースはXFce4よりも少なく、LXQtよりはやや多い程度
- LXDE/LXQtと比べて使いやすく、設定もしやすい
短所
- 機能的にはだいぶ限定的。UIも最小限で使いやすいとはいい難い
実際の選び方
何より使い込んでみるのが一番ではあります。 インストールしただけではわかりませんし、使い込み、設定を練った上でこそその特徴が見えてきます。 そうした中で自分好みの環境を見出していくのが良いでしょう。
複数のデスクトップ環境をインストールして試すのは問題ありませんが、切り替えて使うのはあまり勧められません。 ツールキットの設定やフォントの設定、あるいはXDG DESKTOPディレクトリ上に置くファイルなどが競合してしまうからです。
設定に関してはちょっと触った程度は分からないことが多くあります。
前節ではデスクトップ環境に用意されている設定ツールで設定することを想定して言及していますが、実際にはGNOMEの場合はWindowsのレジストリに近い構造の設定機能がありますし、XFce4も~/.gtkrc-2.0
ファイルに記述する方法があります。
しかしお気に入りのデスクトップ環境を選ぶ上ではこの範疇に留まる必要はありません。 本当にお気に入りのデスクトップ環境になるかという点では不満点を改善可能かどうかが重要になりますから、良さそうな手応えを感じたならば設定について調べていくようにすると良いでしょう。
また、デスクトップ環境に閉じることが必ずしも最善というわけではありません。 例えばPlasma WorkspaceにはXDGを尊重しないという特徴があります。 これは「XDGユーザーディレクトリを反映しない」ということには限らないですし、結局Plasma側で設定しておかなければKDEアプリケーションでファイルダイアログを開かれるたびに保存に手間取ることになります。
しかし、SFTP機能の不安定さなども鑑みて、「デスクトップ環境はPlasmaだけれどファイルマネージャはNemoを使う」というような選択も成り立ちます。 KDE PlasmaはKDEコンポーネントを入れると重くなるため、Plasma Workspaceに限っておき、X-Appsアプリケーションなどを使うという選択肢もあります。 さらに言えばPDFの印刷は(Adobe Readerを除けば)Evinceが最も柔軟で美しいので印刷時はOkularではなくEvinceを使うという選択肢もあります。
また、Hi-DPIへの対応が必要であれば、現状ではGtkデスクトップでは整数倍にしかスケールしないため(Gtk4、あるいはWaylandがこの問題を解決するかもしれません)、KDE PlasmaあるいはDeepinが有力でしょう。 ただし、「実寸が詰められる」のと「仮想ピクセル数が詰められる」ことのどちらが好ましいかについてはなんともいい難いものです。 文字サイズに関してはFontConfig側で指定することもできるため、文字サイズだけで良しとするという手もあります。
また現実問題としてCore i世代よりも昔のコンピュータを扱う機会は相当に減っている上に、 例えCore世代のプロセッサであってもそれなりにビデオアクセラレーションが期待できることから XFceやLuminaの「軽さ」を期待するケースは非常に少なくなっていて、「軽い」ことを理由に選択する必然性はあまりないでしょう。
ファミリーアプリケーション一覧
DE | エディタ | 端末 | ドキュメントリーダ | ファイルマネージャ |
---|---|---|---|---|
GNOME | Gedit | Gnome Terminal | Evince | Nautilus |
KDE Plasma | Kwrite, Kate | Konsole | Okular | Dolphin |
Cinnamon | Gedit | Gnome Terminal | Evince | Nemo |
XFce4 | Mousepad | XFce4 Terminal | Thunar | |
MATE | Pluma | MATE Terminal | Atril | Caja |
Deepin | Deepin-Note | Deepin Terminal | DDE File Manager | |
X-Apps | xed | Xreader |
DE | 画像ビューワ | 画像ブラウザ | スクリーンショット | アーカイバー |
---|---|---|---|---|
GNOME | EOG | Gthumb | Gnome Screenshot | File-Roller |
KDE Plasma | Kuickshow | Gwenview | Ark | |
Cinnamon | Gnome Screenshot | |||
XFce4 | Ristretto | XFce4 ScreenShooter | Xarchiver | |
MATE | EOM | Mate Screenshot | Engrampa | |
Deepin | Deepin Image Viewer | Deepin Screenshot | ||
X-Apps | Xviewer | Pix |
両者の違いは、ファミリーアプリケーションがデスクトップ環境に関係なく利用できる独立したソフトウェアであるのに対し、統合デスクトップ環境の一部となっているものは統合デスクトップ環境のアプリケーション自身が呼び出すということです。↩︎