#10 インターネットがしたいんです

『それでとりあえずインターネットしたいんですけど』

「インターネット?つながってませんか?」

実はユーザーアカウントの作成に先駆けて、ネットワーク接続は済ませていた。

近年はスマートフォンの普及により「インターネット回線を用意する」というプロセスは希薄になった。 詳しい人でなければ普通はスマートフォンを手に入れる時携帯電話ショップで購入するだろうし、その場合は端末と回線はセットだ。 そして契約すれば間違いなくインターネット接続ができるプランを勧められるだろう。いや、もしかしたらそもそもスマートフォンで使えるプランにはインターネット接続のできないプランはないかもしれない。 結果、手に渡るのはインターネット接続ができる状態になった端末だ。「インターネット接続」というプロセスが意識の上にのぼるタイミングは全くない。

また、スマートフォンがあまりにも一般的になってしまったため家へのインターネット敷設自体があまり行われなくなった。 これは固定電話が「なくても良いものになった」のに近い――いや、固定電話は普通に手続きしたらついてくるのに対し、家のインターネット回線はだいたい自分で導入手続きをしない限り導入されないからそれ以上に縁遠いものになってしまったかもしれない。

家へのインターネット回線敷設すべきか?という点に関しては、「パソコンをがっつり使うのであればあったほうが良い」という回答になるだろう。 速度面での優位性もあるが、家庭用インターネットであれば「通信量無制限」という選択ができる。あまりにも大量に通信するならスマートフォン回線の通信量では心もとないし、スマートフォンを使うにしてもYouTubeなど通信量の多い利用方法は主に家で行うのであれば家のインターネットをWiFiと併用する方法により通信量を削減し、スマートフォンプランの通信量を減らすことで金銭的節約につなげることもできる。家族などで台数が多い場合には非常に有効だ。

現在はスマートフォンにも通信容量無制限プランが出ているが、「期間当たりの通信量制限」がかけられている場合が多い。 つまり3日など短期間のうちに通信できる量はここまでです――という制限があるのだ。 そして、そのような制限は本当にインターネットをヘビーに使っていると簡単に到達できるものだ。

家庭用インターネット回線でもそのような制限があったりするのだが、スマートフォンよりはゆるいし、本当に無制限のプランを選択することもできる。

ただしそこまででなく、回線安定性もある程度寛容になれるのであればモバイルルーターを使う、という方法もある。 都市部に家を構えている場合はWiMAXのような「都市部で高速な回線を使ったモバイルルーター」を使うことで家で高速な通信ができる上にその回線を持ち出すこともできる、という運用も可能だ。この場合、家族で利用していると持ち出してしまうと家にいる家族は通信できない状態になってしまうからどちらかといえば一人暮らしの人に向いているが。

ゆかさんの場合は家にインターネット回線が引かれており、かつそこからWi-Fiルーターが置かれている状態になっていた。 「ネットワークアイコンをクリック、家のアクセスポイントを選んで、パスワードを入力して接続」という手順なのだが、これがすんなりいかないことが多い。 ゆかさんの場合も案の定、「わからないです…」という回答が返ってきた。 家庭用のWi-Fiルーターは「ケーブルをつなげば標準で設定されているアクセスポイント名とパスワードで接続できる状態で動き出す」というものが多く、だいたいアクセスポイント名とパスワードは本体にかかれている。この状態であれば本体を見ればいいわけだが、あまり意識せずにやっていたり、業者による設置だったりするので「Wi-Fiルーターの本体」がどこにあるのかわからない、ということもよくある。

そしてなんとかWi-Fiルーターを探し出し、貼られているシールをみつけてアクセスポイント名を選択してパスワードを打ち込み接続…という手順をとったのだ。

『つなぐ、っていうか、見たいんです。クロームないんですか?』

「あぁ、なるほど…ウェブですね」

ウェブ。WWWと書いてワールドワイドウェブと読み、ザ・ウェブはいつかただのウェブと呼ばれるようになった。 そして、MicrosoftがWindowsの標準ブラウザとしてインターネット・エクスプローラを採用し、デスクトップに「インターネット」という名のアイコンを置いたこと、そしてウェブの普及でインターネット利用とウェブ利用が同義に近づくにつれて、ウェブを指してインターネットと呼ぶ人も増えた。

しかし、これを以て「インターネットと言ったらウェブのことだろう」と推測するのは危険である。なぜならばウェブを指して「インターネット」と呼ぶ人であっても、ウェブとインターネットは大概「曖昧に区別している」からだ。

「ウィンドウズはマイクロソフトの製品でクロームはグーグルの製品、しかもマイクロソフトからすればライバル製品ですからね。標準では入っていません。ダウンロードしてインストールする必要があります」

『なるほど、ストアから入れるんですね!』

そうきたか…まぁ、たしかに一括の配布元がない、なんていうのはもはやWindows固有といってもいいような状況だ。Linuxだって一括管理されているのに。

「そういうわけにはいかないんですよ。ウィンドウズアプリはさっき言ったウィンドウズストアからインストールすれば良いんですが、デスクトップアプリの場合はクロームだったらグーグルから、アイチューンズならアップルから手に入れる必要があります」

『えぇ!?』

「多くの場合そこでインストーラというものをダウンロードして、これを実行するとインストール手順が開始されるという形をとります」

『なんでそんなにめんどくさいんですか…』 

「伝統芸だと思ってください」

実際にはかなり多くの理由がある。多くの開発者がアプリケーションの再配布を許可していないこと、開発者もアプリもあまりにも多すぎるため信頼性を担保するための審査が困難なこと、Microsoftがライバル製品を扱うことに非常に消極的なこと、そのような文化が作られてもこなかったことなどだ。 WindowsストアにおいてさえMicrosoftはライバル製品を排除したいという思惑がすけて見えるため、この状況は変わっていかないかもしれない。

「ウィンドウズ10には標準でマイクロソフトが作ったインターネット・エクスプローラと、エッジというふたつのブラウザが搭載されています」

『それを使えばいいんですか?』

「いえ、これらは色々と問題があって人気もありませんし、実際人気がないだけの理由はある…というものですから、おすすめはできません」

あまりこんなことを言うとどこからかお叱りの声がとんできそうではあるが。

「ただ、それ以外のブラウザを入手するためにはこれを使って入手するしかありません」

『なんか矛盾してません?』

「気持ちはわかりますが、そういうものと割り切るしかないですね。ウィンドウズの場合大抵ソフトは買うか、ウェブで手に入れるものですから。画面下のほうにアルファベットのeみたいなのがあると思うんです」

『あります』

「それをクリックしてください」

電話越しにも恐る恐るという感じが伝わってくる。

『出ました』

「じゃあ、上のほうにアドレス打つところがあるのわかりますかねね?検索にも使う部分ですが」

『わかります』

「そこにこう打ち込んでエンターキーを押してください。 https://google.co.jp コロンは上下に並んだ点々です」

大抵の人が尋ねることなので、「コロンってなんですか」という質問をさせるのはちょっと忍びない。

『出ました』

「じゃあクロームを検索してみましょう。多分、悪質な偽物も混じってきますけど、グーグルの公式が上位にくるはずですから、アドレスがグーグルになっているものを探してください」

『一番上にあるやつですかね?』

「多分そうです」

『クロームをダウンロード、ってやつですか?』

「そうです。保存を選んで、そしたら標準ではダウンロードフォルダに保存されると思いますから、それを開いてダブルクリックです。実行していいか聞かれたら「はい」を選択しましょう。そのあとは画面に指示に従って進めれば大丈夫です。」

このあたりは滞りなく進んだ。パソコンを使ったことがないわけではないので、操作そのものは大丈夫なようだ。

「しかしクロームで良いのですか?選択肢は色々ありますけど」

『え、他にもあるんですか?』

「はい。いろいろあります。まず…」

今やウェブブラウザは高度なソフトウェアであり、オリジナルで開発するのはかなり難しい。なので中身は同じだけれどアプリは違う…というのが主流だ。

現在のオリジナルというと、Windowsに搭載されているインターネット・エクスプローラとエッジ、モジラ(Mozilla)が開発しているファイアフォックス(Firefox)、Googleのクロームの元として作られているクロミウム(Chromium)が主なところになる。

ファイアフォックスがいいか、クロミウムがいいか…というと難しい問題で、好みと考え方次第いとうことになる。どちらが軽いか、についても使っているコンピュータ環境によって話は変わってくる。 クロームとクロミウムに関しては機能的には色々と強化されているクロームのほうが良いといえる一方、Googleへの情報送信があるクロームを避けてクロミウムを使うという選択もある。

クロミウムからさらにプライバシーの侵害を気にし、情報送信機能などを徹底排除ものとしてはSRウェア・アイロン、スーパーバード・ブラウザ、イリジウムブラウザ(Iridium Browser)、アングーグルド・クロミウム(ungoogled-chromium)といったものがある。

より優れた機能を求めたものとしては、オペラ・ブラウザやビバルディ・ブラウザもある。 また、よりセキュリティを求めたものとしてはセキュリティソフトで知られるコモドが開発するコモドドラゴンもある。

開発速度の速いクロミウムに遅れてしまうケースも少なくなく、クロミウムからさらにGoogleを遠ざけたブラウザは却って危険なケースもあるのだ。 あくさんあるように見える選択肢だが、実際には開発力のある企業やコミュニティで作られているものでなければ安心できない…という状況が生まれている。 オペラ譲りの機能と、利害関係に乏しくプライバシーに対する心配の少ないビバルディ・ブラウザは現在の注目株と言える。

一方のファイアフォックスは、クローム、クロミウムと比べ多くの人がプライバシーの心配が少なく、満足度も高い、という調査結果がある。 機能面や速度面ではクロミウムに軍配が上がる、という意見が多い。

そんなファイアフォックスにも不満を持つことはあるものだ。 ファイアフォックスはバージョン57で性能を大幅に上げた。その一方でこれまで使用できた機能や互換性を破棄したため、これまで使えていた機能が使えなくなった。特に問題になるのが、これまでファイアフォックス向けに作られていた拡張機能が使えなくなったことだ。 ウォーターフォックスは「互換性を保ったままのファイアフォックス」という路線に踏み出した。

このほかにもWindows用でいえば日本ではルナスケープ(Lunascape)やスレイプニル(Sleipnir)も人気が高い。これらは複数の中身を切り替えて使うことができ、その一部としてファイアフォックスがある形た。

ウェブブラウザを選ぶことは、いささかマニアックな面もあるかもしれない。 しかし、「自分で選ぶ最初のソフトウェア」としては悪くないのではないだろうか。

『はるかさんのオススメなら、ビバルディって使ってみます』

とりあえず使うのであれば私はファイアフォックスを勧めたいところではあるのだが、一番好きなブラウザを聞かれれば、ビバルディだ。

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