#9 スマホ至上主義はなんか違う

『でもLINEとかやりたかったらウィンドウズアプリを使うってことですよね?』

「必ずしもそうとは限りません。デスクトップアプリとウィンドウアプリの両方があるようなものもあります。これは考え方次第ですね」

『考え方?』

「LINEは基本的にスマートフォンありきです。パソコンでLINEすることはできますが、この場合もスマートフォンを持っていないとLINEはできません1。スマートフォンが全てだ、と考えているところは、ウィンドウアプリだけを出している傾向があります」

『うーん…スマホがすべて?』

「あらゆることをスマートフォンでやるべきで、全ての人はスマートフォンを持っていると信じている場合ですね」

『いや、実際すべての人が持ってるわけじゃありませんよね?』

「そういうところは見えていないか、それともわざと無視しているかですね。パソコンを使う人のことを考えないとまずいとは考えない人たちはたくさんいます」

『そうなんですか…』

実際、スマートフォン至上主義とも言うべき考え方は「蔓延している」とすら言っていい。 LINEがスマートフォンがなければ登録も利用もできないなんていうのはほんの一部で、最近は平気で「スクロールしないとスクロールバーが表示されない」ということもある。スマートフォンならスワイプでスクロールできるが、パソコンの場合必ずしも機械的にスクロールできるとは限らない。このようなインターフェイスは大概キーボード操作によるスクロールではスクロールバーは表示されないし、マウスで直接つかみにくいからスクロールがとても難しいのだ。

SNSでもスマートフォンのことしか考えていないためにパソコンだと位置がずれていたり、ボタンが押せなかったり、肝心な機能がなかったりしても放置されていたりするし、「つかんで横にうごかしつかむ」という動作はスマートフォンではスワイプするだけで簡単だが、パソコンでもそれを求められるとマウスでのドラッグアンドドロップを連続でやることになり、とってもしんどい。

『でもそれってなんかちがくないですか?』

「違うとは?」

『だってパソコンパソコンじゃないですか。スマホでできないことがあるからパソコン使うわけですよね』

それはパソコンよりもスマートフォンを先に使っていた人の印象であって、私にとってはパソコンが主で、スマートフォンは補助なんだけどね。

パソコンをスマホみたいに使うんだったらスマホでよくないですか?』

「そのとおりです。パソコンをある程度使えるようになったら、デスクトップアプリのほうが使いやすいと感じることになるでしょうし、パソコンなのにスマートフォンみたいに使わせようとするのは適切でないと感じることもあるでしょう」

いや、論点は違うんだけどね。私はスマートフォンだけを優先してパソコンを蔑ろにしたり、パソコンパソコンとして使う人の存在を意図的に無視するようなことを問題にしたのであって、パソコンをスマートフォンのように使うのはしんどい、ということは理由にすぎないのだけど。

「ただ、LINEは基本的にはスマホアプリですから、ウィンドウズでもウィンドウズアプリ前提になっています。対して、クロームなんかは以前からパソコンで使われていますし、パソコンのクロームとスマートフォンのクロームでは使われ方も違いますから、パソコンのクロームはデスクトップアプリになっています。」

いや、正確にはWindowsアプリのウェブブラウザをMicrosoftが事実上Microsoft Edgeにロックインしたからであって、GoogleとしてもWidnowsストアで公開できるのであればWindowsアプリ版Chromeを出したいだろうけれども。

『じゃあ、ウィンドウズアプリじゃなくてデスクトップアプリを使うようにすればいいんですね?』

「選べる場合はそうですけど、いつもそうというわけではありません。そもそもパソコンでライン使いたいならウィンドウズアプリしかありませんし」

『うーん…』

「もうひとつ重要な点は、基本的にウィンドウズアプリはウィンドウズストアからダウンロードして使用するのですが、これはマイクロソフトアカウントを使う必要があります。おおよそiPhoneやAndroidと同じ仕組みと考えれば良いと思います」

『でもiPhoneって登録とかしてなくないですか?』

「最初にしているはずですよ。でないとapp Storeが使えませんので」

あまりにも流してしまって、意識せず登録することがあるけれど、危険なので気をつけましょう。

『それじゃあラインもマイクロソフトアカウントのほうで使わないといけないってことですか?』

「いえ、ストアで限定的にアプリごとにマイクロソフトアカウントを使ってサインインすることはできるんですが、ウィンドウズ上で使用することを考えるとそれによってユーザーの情報と紐付けられていないという確証はありません。ただ、2016年末ごろから無料アプリに限ってはサインインしなくても使えるようになりました。ラインもこれに含まれます。ローカルアカウントでは無料アプリのみ使うことにしたほうがいいかもしれませんね」

そもそもローカルアカウントを使うことを含めて「スマートフォン方式に統一したい」と考えているMicrosoftに対して抵抗していることになるので、 おとなしく従った方が簡単…ではある。 ただ、Microsoftがこのような方針に切り替えてから日が浅く、あまり使われていないために問題点も明らかになっていない。 不慣れなことと、ポリシーが甘いなどの問題があったことから、「Microsoftが適切に個人情報を扱うかについて今の時点では信用できるだけの確証がない」ためにできるだけ避けたい、というのが2017年の現状である。 GoogleやAppleに関しては問題があることは分かっているけれども、かといって避けることもできないので仕方なく使うという状況であり、少し事情が異なる。

「ストアに関してはほとんどスマートフォンと同じような仕組みですから、特に戸惑うことなく使えると思います」

『でもなんでそんなふうに仕組み増やしたりするんですか?別に家とか学校で使ってるウィンドウズでもちゃんとできてるし、色々変えなくてもいいと思うんですけど』

こういう言葉はどちらかと言えば以前のWindowsを使い慣れている人が言いがちなのだが、今はじめてパソコンを使いはじめている人に言われるようだとなかなかの惨状と言っていい。 もっともそれに関してはMicrosoftにはあまり罪はない。Microsoftはいきなり完全移行してしまいたかったわけで、「民衆」がそれを許さなかったから今がある。

「いくつか誤解があると思います。まず、ウィンドウズがこうなっているのは、マイクロソフトが将来像としてこうしたいと考えていること、そしてマイクロソフトの利益のために変えたいことを実行していると言えます。別にこれは慈善事業ではありませんから、正しいことです。そのビジョンがそれを使う人々と離れていると、使いにくいという結果にはなるのですが、使いやすい使いにくいについては人によって感じ方が違う部分でもありますから、一概には言えません」

「タッチを前提とした設計」や「スマートフォンと統一した操作方法」については「パソコンを使う人」にとっては大変に評判が悪いのは事実だけれども、それが使いやすいという人や、それが良いというわけではないけれど概ね満足しているという人もいるのだ。一言で邪悪なものだと言ってしまうのは正しくないし、この問題はどちらかといえばユーザーが望むことを適切に反映する手段がない、あるいはその手段がとりづらいことが本質だ。

「また、変更すること、新しくなること自体については、必ずそうしなければならないものでもあります。今は使えているパソコンであっても、社会は変化しますから、それに合わせて使い方が変わってきます。それに対応するためには、一部分だけ要求に合わせているだけでは未来がないのです。変わらず使えるようにするためには常に変わり続けていなくてはならないのです。iPhoneだって、今iPhone4を使ったらとても耐えられないくらい苦痛だと思いますよ

それに、ウィンドウズも悪くなっているわけではないのです。パソコンを積極的に使いたい人たちがないがしろにされているような変更だという問題はありますが、一方でその仕組みはどんどん改善されています。ウィンドウズにとってそのような問題視されている部分は表面的な部分なのですが、その内部を見ればとてもよくなっていますから、今から古いウィンドウズに戻る…ということはちょっと考えられないものです。それよりは、評判の悪い部分を変えてほしいと思いますね」

『そういうもんなんですね…』

このあたりの事情はとても複雑である。 営利的な思惑と、予想通りにならないユーザーの動き、そして思い描く未来と理想、ライバルとの駆け引きなど、様々な要素が絡みあってくる。 そのために説明はかなり複雑になってしまうのだけれど、ただでさえ複雑なものだと思われがちなパソコンなので、パソコンと関係のない部分にある複雑な事情の説明というのはなるべくなら避けたいところだ。 少なくとも、パソコンに馴染みがないうちは。


  1. 登録やパソコンでの利用の認証がいるため、スマートフォンでLINEを使っている必要があります。少なくともスマートフォン版LINEを使っていなくてはいけません。