#2 女子大生、パソコンに触る

ビックカメラに到着すると、私達はまっすぐにパソコン売り場のある階へ向かった。 しかし私が案内したのは、パソコン売り場ではなかった。

「まずはここにあるキーボード、いろいろ触ってみてください。遠慮なく、いつもみたいに打ってみて」

ゆかさんは恐る恐るといった様子で指先で押す。最初に触ったのは至って変哲もない、ただのメンブレンキーボードだ。 しかし…

「!!」

Cherry MX 青軸を採用したメカニカルキーボードを押した途端、彼女の表情が変わった。

「どうです?結構違うでしょう。もっと変わったのも色々ありますよ」

特徴的なキーボードに触れさせていく。 どうしても、知らないうちはパソコンに対して「どれも同じ」という印象を持ちやすい。 だが、ラップトップパソコンを購入する場合は、「キーボードの選択」というのは非常に重要になる。 あまりラップトップパソコンキーボードを持ち歩くというのは現実的な選択肢ではない。それを使い続ける限り、そのキーボードと付き合っていかなくてはいけないのだ。 キーボードパソコンを使用する上でなくてはならないものだ。レポートを書く時、ぐにゃりとした感触のキーボードや、押したかどうかわからないアルミ箔のようなキーボード、あるいはどこにキーがあるのかわからず誤字ばかりしているキーボードだったら余計なことに気を取られしてしまうだろう?

道具ひとつで印象がまるで変わることが伝わったようなので、私はようやくラップトップコーナーへ連れて行った。 様々なものが整然と並べられている。 もちろん、私からすれば彼女の候補になりそうなものは、ここにある数からすればだいぶ少ないことを知っている。だが、とりあえずはそれは言わない。

彼女が最初に目をつけたのは、だいぶ大きめで、赤いものだった。 特に気に入った、というわけではないだろうが、その列のはじめのものでもない。周囲にあるものの中でそれに触れてみることにしたのは、やはり赤という色によるものだろう。 多くのメーカーはあまり気にしていないが、色というのは大事な要素なのだ。性能以外に「愛着」という要素だってある。

「その色好きですか?」

「黒とかよりはこっちのほうがいいです。赤がいいってわけじゃないけど」

「何色がいいですか?」

「水色とか好きです」

実のところここで希望の色を述べられても割とどうしようもない。性能面で限定した中で希望の色があるということは稀で、カラーバリエーションも少ないのだ。 「黒か白か」というレベルの話であれば選べたりもするが、希望の色と希望の機能は大概両立しない。 だが、好みの方向性を絞っていくことは、提案する上で大いに意味がある。

「ちょっと持ち上げてみてもらえます?両手で」

言葉で説明するよりも、体験してもらったほうがいいこともある。なにより、「納得」が違うのだ。

「…重っ」

「ゆかさんは思いついたときにさっと書いたりしたいと言ってましたし、軽いほうがいいでしょうね。それに、この大きさだと大きなかばんが必要です」

「ですね」

今度は逆に10インチのラップトップの前につれていく。大学生にも人気の高い、レッツノートである。

「これ、打ってみてください」

「あ、これ結構好き。でもちっちゃくて打ちにくいです」

「ですよね。12インチより小さくなってくるとキーボードも小さくなるんです。レッツノートのキーボードは結構いいと思うんですけど、このサイズになるとなかなかつらいですね。お値段高めで、予算豊富ならレッツノートお勧めなんですけど」

レッツノートの良さや特徴はたくさんあるのだが、いずれにせよ潤沢な予算が前提となる。それがなければ、その説明をすることはあまり意味がない。 それに彼女はネイルをしている。キーはフラットでストロークはあるLet’s noteは、ネイルをしているとちょっと打ちにくいのだ。 キーにひっかけやすく、爪で押す必要が出てくる。 もっとも、長い爪であればどのみちキータイプには向かないが。

キーボードといえばシンクパッドですね。非常にいいキーボードを持っています。特にこのX1カーボンは絶品ですよ」

「押した感じしっかりしてますね。なんかいかつい」

「質実剛健って感じですね。実際、機能性にこだわりのある人がよく使っています。性能も高くて、丈夫です」

「んー、でもちょっと大きいし、かわいくないです」

「可愛さとはまた難しいですね…じゃあ…」

Spectre13のような美とは、少し好みが異なると判断し、またSpectreはあまり大きさ自体は小さくないため、私はXPSのところへ連れて行った。

「これどうでしょう?」

「あ、かわいい」

XPSはどちらかといえば美しいに属すると思うのだが、感性の違いだろう。ローズゴールドもあるし。

「XPSは画面がすごくキレイなんです。デルのディスプレイは単体販売のものも美しいですからね」

「確かに。…このキーボード打ちやすい」

「打ちやすいですか。デルのキーボードは好みの割れる部分ではありますが、浅いものの硬めでちゃんとした感触があるのが魅力ですね」

「これ性能もいいんですか?」

「かなりいいです。プレミアムモデルに属するので、高性能タイプですね。ただ、XPSはいくつもグレードがあって、性能が高いのから低いのまで選べるようになっています。性能が低いもののほうが安いですけれど、私はゆかさんには性能はやや高めのものをお勧めします。あと、デルには学生向けクーポンもありますから、ちょっと安くなりますし」

「これ結構いい」

予想的中。XPSを気に入ったようだ。 そのあといくつか見てみたものの、要件に合う中で気に入ったのは、XPSだった。

今日もよい仕事ができた。お気に入りのパソコンならきっとゆかさんも大事にするだろう。 また詳しくは相談させて欲しいということで、快諾し、別れた。

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