LINEよりもっといいアプリを考えてみませんか

2022-05-17 追記

長らく「間違って草稿のまま公開してしまった記事を、明らかに問題のある記述を取り除いた」という状態で公開され、人気記事となっていましたが、ウェブサイトのリニューアルに伴って適切な内容に加筆修正を行い、改めて公開致しました。

2020-02-01 追記

この記事は当サイトの人気記事ですが、長らく不完全な状態での公開となっておりました。 お詫びして修正致します。

また、公開にあたっての情報チェックが不十分な状態にあるため、この記事は十分な正確性がないかもしれません。 既に長らく公開してしまっていたため、クローズではなく暫定的修正状態とさせていいだきます。

はじめに

日本ではインターネットを使ったパーソナルコミュニケーションの手段としてはLINEが最も普及しています。

LINEの普及にはフィーチャーフォン時代のキャリアメールの利便性がスマートフォンの普及によって損なわれたことと、「ケータイメール」時代に求められた「既読機能」と「より高いリアルタイム性」が実現できたこと、そして絵文字よりも使い勝手の良いスタンプの存在があるでしょう。

もちろん、当初LINEだけがその唯一の選択肢だったわけではなく、先駆のサービスも存在していました。 しかしこうしたものの普及は時の運もあります。 うまく機をつかむことができれば突如として普及し、一度普及すれば盤石となるということです。 しかし、LINEの普及に関しては単なる運とみなすことはできません。 LINEはもとより東日本大震災において携帯電話が通じず、連絡をとることが困難になった人々の姿を見て発想したものであり、日本市場への積極的な営業と最適化の結果であると言えるでしょう。

結果、LINEは世界的なシェアをそれほどもたないものの、日本においては圧倒的なシェアを持ち、全世代において90%以上の人が利用していると言われています。1 LINEをしていない人は携帯電話を持っていない人――と言っても大きくは違わないほどであると言えます。

コミュニケーション手段はその優劣よりも普及のほうが重要であり、どれほどLINEが嫌いでもLINEなしには生活できない――というのが実情ではないでしょうか。

しかし、必ずしも誰もがLINEを歓迎しているというわけでもありません。 特にプライバシーの問題や広告の問題などでLINEに対するネガティブな意見は増加しており、またLINEを集中的に連絡を管理する(唯一の)手段とするのではなく、限定的な利用に留める傾向も強まっています。

では実際にLINE以外にメッセージングアプリの選択肢はないのでしょうか? ――いいえ、もちろん選択肢は他にもあります。 例えすぐに乗り換えないとしても、現在の問題点やより良い手段を考えることはとても良いことです。 これを期に「LINE以外」について考えてみるのはどうでしょうか。

この記事は様々な角度から紹介するため、文量がかなりあります。 気になるポイントを目次から探してみてください。

アプリ/メディアの紹介

SMS

特徴

電話回線を活用したショートメッセージ機能です。 特別なアドレスを知らなくても電話番号によってやりとりすることができます。

日本ではあまり電話番号を教えることを好まないほか、使い勝手があまりよくなく、なおかつ送信に電話料金がかかるため人気はあまりありません。

メッセージには長さの制限があります。

良い点

悪い点

キャリアメール・MMS

特徴

キャリアメールは、携帯電話会社によって提供されているeメー可能ルで、電話回線を使った通知によって仮想リアルタイムで端末に届くためインターネットに常時接続していなくてもメールを受け取ることができます。

メールですがこのように端末に対する通知・自動受信が行われるためインスタントメッセンジャーに近い使い心地になります。

MMSはこれを拡張したものです。日本では「+メッセージ」として提供されています。 直接的にMMSを使うとインターネット経由ではなく直接的にeメールを配信することができます。 感覚的に大きな違いがあるわけではありませんが、より遅延が少なくリアルタイムに近くなります。

MMSの利用は大手キャリアの契約である必要があり、利用条件に制約があります。

良い点

悪い点

LINE

特徴

非常に普及している一般的な手段です。 元々は韓国企業の製品ですが、メイン市場が日本であるため、日本を拠点として展開しています。 日本では圧倒的なシェアを誇りますが、世界的に見ると日本のほかはタイなどごく一部の国でのみ普及しています。

メッセージングアプリにとっては「普及」は最大の価値であるため、「最良の選択」であることは間違いありませんが、アプリ的な使い勝手において特段に優れているわけではありません。

通知関係の機能性や安定性が魅力でしたが、現在は特にAndroid環境においてはこうした点に優位性を持ちません。

絶対的な地位にあるLINEに対して脱する機運が増しているのは、広告の急激な増加という点が大きな要因となっています。特に、芸能やファッションニュースなどが誰が使っているかということに関係なく配信され、その内容が過激であることから「すごく嫌だ」という意見もよく耳にします。

また、もとからあった問題ではありますが、LINEのプライバシーに対する問題が非常に大きく、これを嫌ってという部分もあります。 なお、これについて他企業への個人情報の提供を拒否しているにも関わらず、勝手に提供されていたという事案も経験しています。

着せかえ機能やスタンプ機能のほか、デザイン的なアドバンテージが大きく、使い勝手と引き換えになっている面はあるものの、その分華やかです。

また、Letter SealingというE2EEの機能についてはかなり疑問があります。 E2EEについては説明を読んでいただくとして、E2EEは原理上、LINE側はその内容を読めないはずなのですが、LINEサーバーと同期するとLetter Sealingが有効になっているトークも復元されるため、LINEはその内容を読めていることが分かります。 AES256-CBCによる暗号化ということですが、Letter Sealingはプライバシーを担保するものではなく、むしろLINEのプライバシー侵害をユーザーが検知できないものとなっています。

良い点

悪い点

Kakao Talk

特徴

LINE同様に韓国企業によって開発されているメッセージングアプリです。

COMMなどいくつか開発された中で生き残っているものではありますが、検閲問題、LINEよりも劣る点、そして出会い系での利用など様々な問題を抱えており、LINEのサブとして使う人がいる一方で、できれば利用を避けたいアプリとなっているものでもあります。

韓国でのみ、最も普及しているメッセージングアプリになっています。

機能的にもあまり優れておらず、他のメッセージングアプリが持っている機能でも持っていないケースが少なくありません。これは、「最新のトレンドには追いついていない」という印象です。

良い点

悪い点

Skype

特徴

Skypeはもともとイスラエルの企業が開発していたインターネット通話ソフトウェアでした。 その後チャット機能やビデオ通話機能が搭載され、「通話する方法」としてはスタンダードの地位に立ちました。

また、その頃のSkypeはP2Pを採用した分散ノード型で、盗聴や追跡が困難で、場合によっては政府が反政府活動に利用されないために禁止するほどに安全性の高いアプリでもありました。

現在はSkypeはMicrosoftによって買収され、その後評判を落としています。

もともとはパソコンでの通話を想定したものだったところ、スマートフォン向けに様々な改修を行ったのですが、 その際に従来の分散ノード型ではなく、Microsoftのサーバーでの中央集権となり、またSkypeのアカウントに個人情報を強く紐付けるようになったため、 セキュリティとプライバシーに対する強い懸念が持たれています。

また、2017年に行われたアップデートにより、「スマートフォンアプリが絶句するほどに使いにくくなった」と不評で、Skypeの利用をやめる人が続出するほどに評判を落としています。 パソコンのインスタントメッセンジャーとして有用な機能だったステータスメッセージ機能も削除されるなど度重なる改悪に批判が集まっています。

Skypeの問題は、Skypeの大きな長所であった通話品質とプライバシーという2つの点において、ライバルよりも劣る状態に変更してしまったことにあると言えるでしょう。これがそのまま人気の急降下にあらわれています。 現在はむしろ個人利用よりも企業利用にフォーカスしており、将来的にはTeamに統合されるかもしれません。

良い点

悪い点

Telegram

特徴

LINEやWhatsAppの対抗として作られたインスタントメッセンジャーです。

ロシアのSNS、VKの創設者によってベルリンに拠点を置く独立系非営利企業によって開発、展開されています。 サーバーはTelegram Messanger LLPによって営業されるクローズドソフトウェアであるのに対し、 クライアントは使用しているMTProtoプロトコルは公開されており,非公式のクライアントも認められています。 しました。、に対応しており、プライバシーセキュリティを重視しています。 通常の暗号化はクライアント/サーバー間の経路暗号化ですが、プライベートチャットはエンドツーエンドの暗号化で、Telegram Messanger LLPでも読むことができないとしています。 また、メッセージそのものは暗号化されて補完され、Telegram Messanger LLPも容易には読むことができない(裁判所の請求などがあれば相応の手順を踏むことで解読することは可能)ということになっています。

基本的にはWhatsAppと同じようなコンセプトで、よりセキュアにしたものとなっていますが、アップデートにより「電話番号を非公開にして運用する」ということが可能になりました。 なお、電話番号を使用せずに検索するにはユーザーIDの登録が必要ですが、ユーザーIDを設定すると範囲を限定せずあらゆる人から検索可能になるという点に注意してください。ユーザーIDを削除すると検索には出なくなります。

最近ビデオ通話も追加され、メッセージングアプリに必要とされる機能をフルセットで提供するようになりました。スタンプ機能もあり、これは自作も容易なほか、有志が公開しているものを追加して使用することもできます。

Telegramに関しては2019年にその所感をChienomiにて公開しています。また、Mimir Yokohama内にも解説記事があります。

良い点

悪い点

Discord

使いにくくなっていくSkypeに対抗する形で台頭してきたゲーマー向けのコミュニケーションアプリです。

ゲーマーはチーム戦になるようなゲームにおいてチームメイトとチャットや通話で連絡をとることで連携を深めるということをします。 従来、そのような目的には主にSkypeが使われてきたのですが、Skypeが使いにくくなったため、「ゲーマー向け」と称していたDiscordに人気が集まりました。

Discordは一種のセミクローズドなSNSのようなもので、その使い方も概念も一般的なメッセージングアプリとはかなり異なります。 それを「特徴」として説明するととても長くなってしまうため、別の記事にまとめました。

ここではあくまでメッセージングアプリとして使う場合のメリット・デメリットについて紹介します。

良い点

悪い点

XMPP

特徴

XMPPは他のインスタント・メッセージング・アプリとは大きく異なります。

XMPP自体はやりとりするための通信方法を規定したものであり、その運用やアプリは全く別になっています。 ユーザーはeメール同様に、XMPPアカウントを作成するサーバーを選び、お気に入りのXMPPアプリをインストールして利用します。 eメール同様、異なるサーバーのXMPPユーザーともやりとりをすることができます。

XMPPはXMLをベースにした仕様になっており、平易で確認しやすいものです。

サーバーとアプリを選択できることはとても良いことです。 サービス品質が悪い、あるいは挙動が不審なサーバーがあれば、そのサーバーの利用をやめて別のサーバーにアカウントを作れば良いのですから。 また、アプリについても同様に機能や使い勝手が悪い、セキュリティ上不安があると感じれば異なるアプリを使うことができます。

さらに柔軟な機能拡張があり、音声通信や暗号化、WhatsAppライクな既読通知機能などがあります。

良い点

悪い点

Signal

Signalはプライバシー保護に優れたメッセンジャーです。 常時E2EEが有効な状態でやりとりする仕様であり、第三者に閲覧される危険性が少ないものです。

会話を開始したあとのメッセンジャーとしての使い心地は割と普通です。テキストメッセージ、音声メッセージ、インスタント画像、インスタントビデオ、絵文字、スタンプ、GIF、画像メッセージ、ファイル送信、連絡先の送信、場所の送信に対応しています。 スタンプはアメリカンな感じで日本人の好みには合わないでしょう。 また、グループメッセージにも対応しています。

アカウントは電話番号に紐付いており、コンタクト管理はスマートフォンの電話帳に依存しています。電話番号を伏せてやりとりすることはできません。これはグループに加えた場合も同じです。

Signalはスマートフォンに強く依存したアプリです。登録にもやりとりにも電話番号が必要ですし、Signalデスクトップアプリを使うにはスマートフォンでQRコードを読み込む必要があります。 また、ひとつのSignalアカウントを使うことができるスマートフォンは一台だけであり、LINE同様に他のデバイスで使おうとすると元のデバイスはディアクティベートされます。

良い点

悪い点

Session

Sessionは非常に優れたプライバシー保護機能を持ち、匿名性が高いメッセンジャーです。 アカウントに個人につながる情報は一切なく、メッセージはすべてE2EEによる暗号化が行われます。 また、分散ノードでバウンスを行うことでIPアドレスも秘匿します。

Sessionは登録を一切必要としません。Sessionは初めてSessionを利用するときに自動的にSession IDを生成し、これがアカウントになります。アカウントの拠り所になるIDやパスワードがないため、かなり不安になるかもしれません。

このあたりはかなり独特です。 連絡先を追加する方法としてSessionIDを指定する方法がありますが、このIDは非常に長く、口頭で伝えられるようなものではありません。そのため、なんらかの方法で共有する必要があります。 あるいは、その場にいるのであればQRコードを読み込むことでも追加することができます。

同じアカウントを複数のデバイスで使う、あるいは別端末に引き継ぐには「リカバリーフレーズ」を利用します。 リカバリーフレーズは英単語の羅列で、リカバリーフレーズとスクリーンネームを入力することでアカウントにリンクします。 こちらも何らかの共有によって転送するのが現実的でしょう。 履歴や連絡先は既存のアクティブなデバイスから転送することで同期します。

Seesionは基本的な機能を備えています。テキストメッセージ、ボイスメッセージ、GIF、画像メッセージ、ファイル送信、音声通話、ビデオ通話です。また、公開グループ、非公開グループのチャットもあります。

アカウントが完全な匿名になっているコミュニケーションツールの利用には細心の注意を払うべきです。 もちろん、プライバシーが守られるのはとても良いことです。しかし、それは同時に悪意に対するリスクになります。Sessionの強力なプライバシー保護越しでは、相手が何者であるかを追跡する手段がありません。相手が匿名性を悪用している可能性を考え、警戒するべきです。 もちろん、自身が匿名性を傘に着ることがないようにするという意味でも細心の注意を払う必要があります。

なお、検証時Fcitxによる入力がうまく行かず、Linuxで日本語変換ができないという問題がありました。

良い点

悪い点

Wire

Wireはスウェーデンで展開されるプライバシーを重視したメッセージングアプリです。

アカウントは電話番号またはeメールで作ることができます。 Sessionのようにふわっとしているわけではなく、また個人と強く結びついているわけでもありません。

Wireは他とは少し雰囲気の違うアプリです。お洒落でもありますが、それ以上にグループ利用に特化した想定となっており、ping, メンションなどグループ向けの機能が充実しています。また、Slackのようにビジネス用途で「チーム」を組んで利用することもできます。 こうしたグループ向けの機能は1対1のやりとりにおいても特に隠されたりすることはありません。

Wireはプライバシーを重視していますが、一方でかなり開放的なプラットフォームです。 グループチャットに重きを置いていますし、外部からもアクセス可能なユーザープロフィールページが存在し、名刺を渡すくらいの感覚でユーザープロフィールページのアドレスを渡すような想定になっています。 また、ユーザー名はグローバルに検索可能であり、検索にひっかかった知らない人に話しかけることもできます。

こうした点を見るとWireはコミュニケーションハブを志向しており、ソーシャル機能に乏しいものの、方向性としてはFacebookのような方向を目指していると言えそうです。

WireのアプリはWindows, Mac, Linux, Android, iOSに対応しており、またウェブ版も存在します。

良い点

悪い点

解説から除外されたアプリ・メディア

今回の執筆にあたり検証が難しいといった理由で詳しく触れていないものはこちらです。 他と並べての検証はできませんでしたが、ある程度検証できたものについてはそれも記載しています。

ICQ

ICQはインスタントメッセージングの先駆けとしてイスラエルのMirabilisによって1996年にリリースされたアプリでした。 ICQは1998年にAOLにより買収され、AOL Messangerと同じOSCARプロトコルを採用しました。

しかし、現在ICQはロシアのMail.ruグループの参加にあり、現代的な電話番号ベースのメッセージングアプリとなっています。

フォトメッセージ、ビデオメッセージ、ファイル送信、スタンプ機能などを備え、音声通話及びビデオ通話に対応します。

一方、従来のユーザーは従来のUINを利用してログインすることもできます。 ログインするには非常に見つかりにくい”Login with password”をクリックします。

パスワードの変更にはSMSの受信が必須であるため、パスワードを変更することはできません。また、新規にUINを利用するアカウントを作ることもできなさそうです。

ICQはもともとサーバーにログを持たない構造なので当然ですが、古いやりとりは閲覧できません。 しかし、コンタクトリストは維持されており、(もしも今もなおICQを使っているのであれば)インターネット草創期の仲間ともやりとりすることができるでしょう。

かなり最近までOSCARプロトコルのサポートも維持されていたのですが、現在は廃止となっており、Pidginのようなアプリケーションからやりとりすることはできなくなっています。

ICQのスマートフォンアプリはスマートフォンのほぼ全権を要求する上、電池消費も非常に激しいので、利用にはかなり抵抗感を持ちました。

Viber

LINE的なアプリの中では海外では最も普及したのがViberです。

ただし、平文でのやりとりである上に「個人情報を平文で流す」仕様であったことから炎上、海外でもあまり使われなくなっています。 (依然としてViberが主流である国もあります)

現在は楽天が買収し、楽天モバイルの端末には標準導入されていることから、使っている方もいるかもしれません。

アカウントは楽天のアカウントと密接に連動しており、また楽天は買収時にViber買収の意図を「楽天の販路を広げること」であるとしており、プライバシーを守る意思がないことを明らかにしています。

WhatsApp

特にアメリカで人気の高いインスタント・メッセージングアプリです。 世界的に見れば最も普及しているメッセージングアプリでもあります。

アカウントは直接的に電話番号を利用しています。 ただし、このことや、その運用方法が重大なプライバシーの侵害になっているとの指摘があります。

基本的には「電話」に根ざした「SMSの代わりに利用できる無料のアプリ」という形で、それが日本においてはそのプライバシー意識のあり方からかなり忌避されている側面もあります。

Google Message

Googleの個人向けメッセージングツールは”Google Talk”, “Google Hangouts”と変遷してきましたが、 Google Hangoutsも廃止となり、残されたのがGoogle Messageです。

Google MessageはGoogleアカウントと密接に結びついており、PCで使うには「スマートフォンとのペアリング」が必要です。 これは、使用しているPCの情報をGoogleに通知し、GoogleがPCにおいてもその利用をトラッキングできるようにする必要があるということを意味します。 もちろん、PC利用全域をトラッキングできるわけではありませんが、プライバシー上の大きな懸念があります。

そもそもGoogle Messageはメッセンジャーアプリとして利用されることを想定したようなものではなく、その基盤はMMSなどGoogleの「アプリ」との同期という考え方になっています。 ビジネス用途ではGoogle ChatとGoogle Meetが残されていますが、LINEの代替として使えるものではないでしょう。

Google Chat

Google ChatはGoogleのビジネススイートであるGoogle Workspace(旧G-Suite)の一部として提供されているメッセージングサービスです。

ビジネススイートの一部になったため非常にビジネス感のある見た目ですが、Google Workspaceの機能ひとつひとつのトップにアクセスすると契約を求められますが、Google Workspaceの個々のアプリ(Google ChatやGoogle Meet)はGoogleメニューからアクセスすることが可能で、実際にGoogle Workspaceの契約が必要になるのは、チームとしてのコラボレーションツールとして使う場合だけです。

つまり、Google Hangoutsの後継としてGoogle Chatを用いること自体は可能です。 ただし、Slackのようなコラボレーションのためのテキストでのやりとりのツールというものであり、通話機能は外され、そのような目的ではGoogle Meetを使うことになっています。

パーソナルなコミュニケーションツールとして求めるものとは大きく異なっていると言っていいでしょう。

Facebook Messanger

Facebookの機能として存在しているインスタントメッセンジャーです。アプリの名前は単に「メッセンジャー」となっています。 以前はXMPPベースでしたが、現在は独自の形式になっています。

Facebookのスポンサードもあり、様々なプラットフォームについて最初からインストールされていたりします。 Facebookからは切り離され、独立して使えるようにはなっていますが、その利用はあくまでFacebookアカウントに基づくものであり、連絡の管理などもFacebookと同期されています。

世界ではWhatsAppに次いで利用されているアプリですが、前提としてFacebookを人とのつながりのハブにしている必要があるため、利用できる人は限られているでしょう。

Slack

Slackは個人間のメッセージングというよりも、グループチャット用のサービスです。

ITエンジニアの間では一般的で、チーム作業において使われてきましたが、2017年に日本語に対応したことから一般向けにもテレビCMなどで見かけるようになりました。一時期は「カップルでSlack」という話題もありました。

利用時は他のもののように「アカウント」に基づいているわけではありません。 それぞれのグループである「チーム」を作成し、チームごとにメールアドレスの登録を行う形式になっています。 さらにチームの中に複数のチャンネルを立てることができ、それぞれ独立したトークを行うことが可能です。

もともとビジネス寄りで使われていたSlackですが、一時期の一般用途への進出という野望は叶わず、現在は日本でもビジネスツールとして広く使われています。

Twitter (ダイレクトメッセージ)

Twitterのダイレクトメッセージ機能を個人的なやりとりに使う方法もあります。 「Twitterだけは知っている関係」ということはありえることですので、そのままやりとりに利用できるのは良い点です。

Twitterは短文のサービスですが、ダイレクトメッセージは10000文字LINEよりもっといいアプリを考えてみませんかまでに拡大されており、メッセージングアプリに近い利用感になっています。

Twitterは匿名から実名へとその色合いを変えてはいますが、それでもある程度のプライバシーの緩衝材にはなるかもしれません。ただし、Twitterのダイレクトメッセージは明示的に検閲されており、プライバシー保護はなされていないものです。

観点

プライバシー保護

アプリ E2EE
SMS
MMS
e-mail
LINE ?
Kakao
Skype
Telegram
Discord
XMPP
Signal
Session
Wire

後述するようにE2EEはアプリおよびサービスがあなたのプライバシーを守ることを保証するものではありませんが、あなたがプライバシーを保護された上でやりとりしたいと考えた場合に最低限必要となるものです。

eメールはお互いが導入・適用することで完全なE2EEを利用することができますが、ほとんどの人は利用していません。

LINEはLetter Sealingを有効にした場合E2EEが有効になります。 しかし、本当に実効性のあるE2EEであるかについては疑問があります。

Kakao TalkはシークレットトークにおいてのみE2EEが有効です。

Telegramは通常のクラウドチャットではE2EEを使用せず、シークレットチャットにのみ完全な(シングルデバイスの)E2EEを採用します。

Kakao TalkやTelegramのような限定的E2EEは世間的には批判を浴びやすいものの、現実的にはこれが利便性と安全性を両立させる最善策であり、常にE2EEが有効で普通に使えるように見せるための方法は現実にはE2EEの効力を失わせるような要素が伴っています。詳しくはマルチデバイスE2EEを参照してください。

多くのメッセージングアプリはE2EEを使用していてもそれを破壊してしまう仕組みを使用しています。 仕組みも含め、プライバシーが保護されたやりとりが可能だと考えられるのは、eメール, Telegram, Signal, Session, Wireです。 XMPPも非常に複雑な条件を揃えることができれば保護されます。

日本語

アプリ 日本語化
SMS
MMS
e-mail
LINE
Kakao
Skype
Telegram
Discord
XMPP
Signal
Session
Wire

日本語に対応していないとハードルが高くて使えない、という方もいることでしょう。 この中ではTelegramだけが非対応です。

プラットフォーム

アプリ Win Mac Linux Android iOS web web SP
SMS
MMS
e-mail
LINE
Kakao
Skype
Telegram
Discord
XMPP
Signal
Session
Wire

SMS/MMSをPCで使うためには、SIMを利用できるPCを用いる必要があります。

eメールがwebやスマートフォンwebで利用できるかどうかは、お使いのメールプロバイダなど諸条件によります。

LINEはwebアプリではなく、Chrome拡張機能として存在します。 LINEの公式としては、ChromeアプリLinuxなどのプラットフォームで利用することを拒否しています。

マルチデバイス

アプリ SP only PC only multi SP multi PC SP + PC
SMS
MMS
e-mail
LINE
Kakao
Skype
Telegram
Discord
XMPP
Signal
Session
Wire

“SP only”はPCだけで利用することが可能かどうか、“PC only”はPCだけで利用することができるかどうか、“multi SP”は複数スマートフォンでの同時利用が可能かどうか、“multi PC”は複数PCで同時利用ができるかどうか、“SP + PC”はスマートフォンとPCで同時利用ができるかどうかです。

SMS/MMSはSIMが必要なため、基本的に同時利用はできません。しかし、単一の番号の複数のSIMがある場合は同時利用も可能です。

アカウントがスマートフォン(電話番号)と密接に結びついているものに関しては、多くの場合複数のスマートフォンでの同時利用はできません。 また、登録にはSIMカードの入ったPCがあれば良いのではなく、スマートフォンのアプリ(電話番号はそのデバイスでなくても良い)が必要とされることが多いです。これは認証をSMSで行うためですが、その端末とは異なる電話番号を使うことはあまりおすすめできません。

アカウントと紐付け

アプリ アカウント 紐付け
SMS 電話番号 電話番号
MMS 電話番号 電話番号
e-mail メールアドレス プロバイダーによる
LINE ユーザー名 「電話番号またはFacebookアカウント」とスマートフォン
Kakao ユーザー名 電話番号とスマートフォン
Skype ユーザー名 Microsoftアカウント
Telegram ユーザー名, 電話番号または氏名 電話番号
Discord ユーザーID メールアドレス
XMPP XMPPアドレス プロバイダーによる
Signal 電話番号 電話番号とスマートフォン
Session SessionID なし
Wire ユーザー名 電話番号またはメールアドレス

「アカウント」はそのシステム上でどのように認識・識別され検索されるかを示します。 検索に関してはそれ以外にも電話番号などで行えることもあります。

「紐付け」はそのアカウントの所有者をどのように認識しているかです。 特に登録のときに必要になりますし、電話番号に紐付けられる場合、電話番号が変わってしまうと利用できなくなります。 (変更ができる場合はあります。)

紐付けが「電話番号とスマートフォン」になっているものは、電話番号登録だけでなく、特定の1台のスマートフォンにインストールされたアプリが必要となるものです。

Skypeは歴史が長いため要素が色々あります。 Skypeアカウント自体はもともとメールアドレスのみでの取得が可能で、そのようにして取得されたSkypeアカウントも利用することができます。 新規に登録する場合はMicrosoftアカウントが必要です。 Microsoftの登録には電話番号またはメールアドレスが必要であり、間接的にこれらに紐付いています。 また、登録時には氏名と誕生日を登録しなければなりません。 このMicrosoftアカウントの登録要件も過去には異なるものがあったほか、これとは独立したOutlookアカウントでも利用可能です。

現在のSkypeはMicrosoftアカウントに紐付いているため、Microsoftアカウントに登録されていないSkypeアカウントのメールアドレスを変更しようとした場合、Microsoftアカウントに登録しなければ操作できなくなっています。

Telegramは電話番号に基づくメッセージングアプリですが、電話番号を隠すこともできます。 このため、ユーザーの識別にはこれとは別にユーザー名とユーザーの氏名が使われます。 この中で「ユーザー名」に関しては、重複を許さないものであるため実質としてはユーザーIDなのですが、このユーザー名は検索においてのみ使用されます。 さらに、検索時はユーザー氏名によって行うことができ(名は省略不可)、ユーザー名およびユーザー氏名による検索を許すかどうかはユーザー名を設定しているかどうかによって決まります。 つまり、「電話番号を隠し、ユーザー名を設定しない」が可能なのですが、この場合は氏名がユーザー名のような扱いを受けます。なお、Telegramはスクリーンネーム(表示上の名前)はありません。

コンタクトの扱い

アプリ 内部 デバイス
SMS 任意
MMS 任意
e-mail 任意
LINE 要求(非同期)
Kakao 要求(非同期)
Skype 制限 要求
Telegram 任意
Discord
XMPP
Signal 要求
Session
Wire

「要求(非同期)」というのは、アプリは連絡先を知るためにデバイスの連絡先へのアクセスを要求するものの、アプリが連絡先をデバイスの連絡先によって管理するわけではない、ということです。 LINEとKakaoはこのアクセスを完全に拒否する方法はアプリ上はありません。

Skypeはコンタクト機能が消えており、メッセージをやりとりした(追加しただけなど空のメッセージを含む)相手をコンタクトとして表示します。こうした挙動は明らかなものではなく、特に旧Skypeのアカウントかどうかにも影響され、曖昧です。 また、Skypeは連絡先の利用を要求し、使わないためには拒否しつづける必要があります。

Wireもメッセージをやりとりした相手をコンタクトとして表示します。

基本機能1

アプリ 文字数 カメラ 音声 ビデオ 履歴
SMS 160
MMS
e-mail
LINE 10000 2週間
Kakao 2〜3日
Skype 30日
Telegram 4096 1000000
Discord 2000
XMPP
Signal 1600 Never
Session Never
Wire Never

「カメラ」は保存された画像ではなくその場でカメラで撮影して投稿する機能、「音声」は音声メッセージ、「ビデオ」はビデオメッセージ機能です。

LINEやKakao Talkなどはサーバー上では一定期間のみ保存されますが、端末上からは削除されません。

Discordのテキストメッセージ文字数はNitroを使っている場合4000に拡張されます。

Signal, Session, WireのようなE2EEが常時有効なアプリの場合、サーバーはメッセージを保存することがそもそもできないため、端末に保存されているものがすべてとなります。

基本機能2

アプリ スタンプ GIF 画像 ビデオ 音声
SMS
MMS
e-mail
LINE
Kakao
Skype
Telegram
Discord
XMPP
Signal
Session
Wire

「画像」「ビデオ」「音声」は、送信することでファイルとしてではなく、メッセージ上で再生できるかどうかを示しています。

この項目はテストしきれていないため、事実と異なる部分があるかもしれません。

XMPPは拡張機能やアプリによって事情が異なります。

基本機能3

アプリ 通話 ビデオ通話 画面共有
SMS
MMS
e-mail
LINE
Kakao
Skype
Telegram
Discord
XMPP
Signal
Session
Wire

「画面共有」は画面をビデオカメラとして認識させるようなことをせず、機能として画面共有が可能かどうかを示します。

XMPPは拡張機能によって実現可能です。

基本機能4

アプリ 編集 削除 時限 予約
SMS
MMS
e-mail
LINE 24h 24h
Kakao 5m
Skype 60m 30d
Telegram 48h 48h Sec
Discord
XMPP
Signal
Session
Wire

「編集」「削除」は自分だけでなく相手にも反映されることを前提としています。 多くの場合、編集・削除が可能な期間に制限があり、Kakao Talkはわずか5分となっています。

予約投稿が可能なのはTelegramだけでした(公式の機能に限る)。

Telegramの時限メッセージはシークレットチャットでのみ有効です。

基本機能5

アプリ Cグループ Oグループ BS
SMS
MMS
e-mail
LINE 〜499 有料
Kakao
Skype 〜50
Telegram 〜200000
Discord 〜10
XMPP
Signal
Session
Wire

「Cグループ」は招待されなければ参加できないクローズドなグループ、「Oグループ」は存在を知っていれば参加できるオープンなグループを指します。BSは発信者が登録者に対してメッセージを送信する機能です。

eメールはCCによってCグループ、メーリングリストによってOグループ相当の扱いができます。BSはメールマガジン(ニュースレター)です。

Discordは招待が必要ですが、そもそもサーバーがグループであると考えられます。 サーバーの招待をコントロールすることでオープン度合いをコントロールできます。これは、招待リンクの期限と利用回数、そしてそのリンクで参加したメンバーの自動キックでコントロールします。

Discordのグループダイレクトメッセージは10人が最大です。

LINEのBS機能はLINE公式アカウントで、有料(実用的にはかなり高額)のものです。TelegramのBS機能は人数制限もありません。

XMPPは拡張機能によりCグループが可能です。

筆者の場合

私の場合、2018年からTelegramを使い始めました。 最初はごく一部で使っていましたが、2019年にはTelegramがとても使いやすくなったので、2020年末頃によく連絡する人たちにTelegramを入れてもらい、コミュニケーションはTelegramに移りました。

どうしても連絡先を教えて欲しいと言われた場合に備えて、一応LINEアカウントは残していたのですが、2021年には年始の挨拶に使っただけで、2021年中にバックグラウンド通信・起動ともに禁止するようにし、LINEを使うことはなくなりました。 2022年にLINEのアカウントは削除しました。

現在個人的な連絡手段として使っているのは主にTelegram, Discord, Twitter DMです。 使い分けているのは、単純に相手との関係性と属性が理由です。 Telegramは親しい人であり、DiscordはDiscordの関係、TwitterはTwitterの関係ということです。

「どうしても連絡先を」と言われたときにはSessionまたはWireを教えるようにしています。 Sessionを教えるのは「とりあえず連絡先交換」している場合、Wireを教えるのは今後も継続的にやりとりをすることが想定される場合です。 ただし、そのようなポリシーを立てているだけで、実際にSessionまたはWireでやりとりをしている人はいません。

まとめ

前提としてひとつの答が誰にでも適用できるわけではありません。 すべての人が同じメディアを使う、というのは不健全な状態であり、誰もがLINEを使うというのはそれ自体があまり良いことではありません。

それを踏まえた上での話となります。

脱LINEを考える場合、どうすることもできない点、つまりLINEだけが優れている点が

という2点になります。スタンプの問題はかなり解決しづらく、着せかえ(=スキン)に関しては自分で作れるものもありますが、LINEほど自由度があるものがなく、また作るのもそれなりに技術が必要です。 スタンプに関しては自作したり、有志が公開しているものを使えたりすることもありますが、自分でスタンプの絵を書かない限り著作権上の問題がつきまといます。

また、LINEの他のサービスを使っている場合、LINEがハブになって機能するようになっているため、LINEを削除することができません。

代替を選択する上で最も注目する点としては、「電話番号」でした。 WhatsAppを代表として、アメリカの文化では電話番号をオープンにし、電話番号をIDとすることに抵抗がないようです。しかし、日本人は電話番号を晒すということはとても嫌うので、この文化は合わない、と感じました。WhatsAppやSignalなどが該当します。 また、FacebookのようにひとつのSNSをコミュニケーションハブとして使い、すべての人間関係をそこに集約する、というやり方も、日本人は好まない傾向が強いように思います。

これらを踏まえ、メインに使うアプリとしてはTelegramをオススメします。 Telegramはアプリの出来が非常によく、複数台のスマートフォンでも使えるなど非常に柔軟です。 あまりにも出来が良いため、私は自分で作っていたメッセージングアプリの開発をやめ、また自分が作っているアプリをTelegramから使えるようにしたほどです。

TelegramはWhatsAppのような電話番号ベースですが、電話番号を隠すことができるという点は、人にオススメする上では不可欠な要素でした。初期状態で公開されているため、設定を行う必要がありますが(しかも日本語はありません)、ここさえ乗り越えれば極めて使いやすいと思います。 プライバシーの制御も非常に細かくできます。

この先はLINEをどのように見ているかによって変わってきます。 特にLINEを非常にプライベートな連絡手段と考えている人と、誰であれとりあえず教えても構わないようなものと考えている人の間では意識を同じにすることはできません。

Telegramの利用感覚としては、LINEよりもプライベートなものであると感じやすいです。 そのため、LINEを親しい人とのプライベートな連絡先と考えている人はそのまま乗り換えても困らないのですが、そうでない人はもしかしたらLINEの友だちにTelegramのアカウントを教えることは強い抵抗を感じるかもしれません。

なお、連絡先を交換すること自体は電話番号を知っている必要はありません。ユーザー名を設定していれば追加するためのリンクが取得できます。例えばこのリンクはMimirYokohamaのTelegramアカウントへのリンクです。 もちろん、追加が済んだらユーザー名を消すことで検索できなくすることもできます。

LINEを消してしまうかどうかは、LINEをどのように使っているかに大きく依存してきます。 例えば家族のような親しい人とだけやりとりしているのであれば、全員にTelegramに移ることを提案するのはそれほど難しいことではないでしょう。 また、それ以外は連絡がとれなくなっても困らない人で構成されているのであれば、思い切って消してしまい、「LINEやってません」で通すこともできます。

難しいのは、ある程度話し、なおかつTelegramに移れるほど親しくない人が多くいる場合です。 これはTelegramのプライベート感の問題だけでなく、そもそも移ることを提案できる間柄かどうかという問題もあります。

現実的な方法はLINEは残しておき、「やりとりはTelegram、LINEは掃き溜め」という使い方です。 ある程度人間関係を広げれば付き合いとして連絡先交換くらいはするもののやりとりはしない、あまり話したくないという状況は発生するものです。それを、悪い言葉ではありますが「掃き溜め」と表現しています。 ストレスの少ない交流を確立するには、どうしても掃き溜めを用意する必要が出てきます。10年ほど前だと、若い人たちの間ではKakao Talkにその役割を求めて2つのアプリをインストールしたりもしていたようです。

LINEが普及していて、LINEしかやっていないのでどうしてもLINEを交換せざるをえない、という状況はどうしても発生しやすいです。 そのため、LINEの友だちを「クリーン」な状態に保つのは非常に難しく、逆にLINEを掃き溜めにするのは非常に簡単です。 現在LINEをメインで使っている場合でも、親しい人たちを他に移すだけでいいため、相対的には楽です。

ただ、これによって解決するのはLINEの使い勝手に対する不満から、よりよい選択肢を求めている場合に限られます。 LINEという企業に不信感があり、個人情報の利用などに対して不安を感じている場合などはアカウントを消さなければ解決しません。

では新しい「掃き溜め」をつくる場合ですが、一番簡単なのはeメールです。 しかし、今更eメールとなると受け入れられない可能性が高いことと、eメールの文化はすっかり忘れ去られ、ビジネスマナーのような本来eメールとは関係ない文化が侵食しているために手軽なコミュニケーションとしては利用し難いかもしれません。 XMPPも良い選択肢ですが、その採用はeメール同様に技術的な理解を求められるため、かなりハードルは高いと言えます。

こうしたことを踏まえると現実的に選択しやすいのはSessionかWireとなるでしょう。 Signalを選択肢にしないのは、Signalは電話番号をIDとして使い、それを公開する仕組みであるため、掃き溜めにすることはできないからです。なぜならば、一度連絡先を交換すればブロックすることはできても、削除することができません。アカウントを作り直しても電話番号が同じである限り同じアカウントに復帰することになるため、Signalに連絡をとりたくない相手が生まれてしまうと非常に厄介です。 (そもそも、Signalには連絡先という概念がなく、単純に電話番号に対してメッセージを送信します。)

SessionおよびWire(eメールで登録した場合)はあなたの個人情報を結びつけません。 つまり、アカウントを完全に捨て去ることができます。サービス提供者によるプライバシーに対する懸念も、他と比べて非常に低いと言えます。

Sessionは使いづらいことと、本当になににも紐付かないために非常にふわっとしているため、ちゃんと繋がりのある相手とのやりとりに使うのはとても不安があります。 Wireはそれと比べるとちゃんとした連絡手段であるように感じられ、Wireで人のつながりが広がるような状況が想定されています。 どちらが好ましいかはスタンスによるでしょう。

なお、連絡先交換としてLINEを求められたときにSessionやWireを持ち出すことができるかどうかは、それが障壁になった場合の想定が必要になります。 相手が新しいアプリの導入を嫌がった場合は「それなら仕方ない」と対応できるなら良いのですが、そうなったときに折れるしかないようだと実現できないからです。 eメールを使うと面倒がられる可能性は高いですが、相手にとっては「使おうと思えば既に使える」手段を提供することになります。もっとも、経験的にいえば、これはうまくいく可能性は他のアプリを条件とすることよりも低く、交換しても連絡はこない場合が多いように感じています。断りの体裁を気にするのであればそれも選択肢のひとつでしょう。 繰り返しになりますが、摩擦が少ないのはLINEを掃き溜めにする方法です。 また、さらなる解決策として「そもそもTelegramに登録したいと思わないような相手とは連絡先を交換しないようにする」というのもあります。私の可視範囲でも実際にそのように対応した人もいます。

無理やりにおすすめの形をひとつだけにするのであれば、「メインをTelegram、サブをLINE」が勝手良いです。

解説

プライバシー保護

プライバシー保護、及び暗号化における原則は広く認知されていないものですが、これはテロ行為を助長する可能性以上に優先されるものです。

プライバシー保護によって私信が完全に守られるとすれば、「知られる危険性がない」ことを以てテロ行為の策謀に利用される可能性というものが発生します。最も深刻な問題として考えられるものがテロですが、もちろんそれ以外の犯罪に利用される可能性もあります。

しかし、容易に分かることですが、「犯罪に利用されるものをすべて禁止」したならば私たちは生活することができません。

では最も深刻なリスクであるテロ行為以上に優先されているプライバシーとは何かというと、国家による検閲です。 基本的に国家は検閲を望むものです。そして、全体利用からすればごく僅かなリスクであるテロと違い、国家による検閲は確実に全体利用に対して影響します。

ほとんどの人には実感の湧かないものではありますが、前提としてプライバシーは守られていなければならないものであり、プライバシーなくして基本的人権は成立しません。 「プライバシー保護」はこれを基にして成り立っており、僅かな例外でも許せばそれは保護されていないことと同義であるというものです。 特にメッセージングアプリで議論されるプライバシー保護は、個人的な好悪や利益とは全く異なる次元のものであり、はるかかけ離れたところにあるものの、最終的には「プライバシーが保護されていれば、あなたが穏やかに暮らす権利を獲得できる」というところに到達します。

この記事においてプライバシー保護で知っておくべきことは次のようなものです。

「プライバシー保護はあなたを犯罪から守るためにあるものではなく、あなたが直接の利益を感じるチャンスはまず訪れないけれど、あなたの基本的人権を守るためになされていなければならないものである」

E2EE

E2EE(End TO End Encryption)は端末間暗号化です。 ここでいう端末は機器(Device)ではなく終端(Terminal)のことです。 メッセージングアプリの場合、通常双方のアプリの間での暗号化を指します。

メッセージングアプリにおいて経路暗号化ではなくE2EEに注目される理由は、メッセージングアプリは通常「ユーザーとユーザーがやりとりする」ものであり、ユーザーの私信はサービス提供者であっても覗き見ることは許されない、という原則に則っています。

この原則はプライバシー保護における問題ですが、場合によっては法律的な問題でもあります。日本においても通信の秘密を侵すことは犯罪となりますが、近年の日本の国家としての方針の関係からサービス提供者がこれを犯すことを以て犯罪とすることは基本的になく、むしろ国家としてそれを要求することすらある状況にあり、容易な問題ではありません。 しかし、EUにおいてはプライバシー保護は厳格なものであり、当然ながらその秘密を侵すことは許されないという考え方がなされています。

通常の経路暗号化の場合、ユーザーAとサーバーサーバーとユーザーBの間という形で暗号化されるためサービス提供者はその中身を見ることができます。 E2EEはアプリの間で暗号化されるため、サービス提供者を含め誰も盗聴することができません。 これが大きな違いです。

しかし、E2EEを採用することはプライバシーが守られていることを示すわけではありません。

E2EEで採用される暗号で最も一般的なAES暗号を例にとると、AES暗号はAとBの「共通の秘密」を用いて暗号化/復号化を行います。 一般的には「暗号鍵」と呼ばれますが、この説明では「共通の秘密」というほうがより適切です。

「AとBが共通の秘密を知っており、それぞれ共通の秘密を用いて暗号化を行い、受信者はそれを共通の秘密を用いて復号化した」という状態が成立すれば、これでE2EE自体は成立しています。 しかし、この共通の秘密を知っている者は誰でも復号化することができるため、サービス提供者も同じ秘密を知っていればサービス提供者が覗き見ることができてしまいます。

「AとBだけが知っている共通の秘密」であることはこの時点では特に保証されていません。それを保証するためには鍵生成や鍵交換のメカニズムによります。

また、通信上は完全に秘密が保たれるとしても、アプリがサーバーに受信したメッセージをサービス提供者に送信したり、あるいは広告事業者に提供したりといったことがあれば、やはりプライバシーは保護されません。むしろ、そうなればE2EEの意味は全くありません。 経路暗号化ではなくE2EEが求められるのは、サービス提供者を含む第三者が私信を僅かでも知る余地がないようにするためであるため、アプリから知る手段があるようでは元も子もないのです。

しかし、実際にはできてしまいます。そうしたプライバシー保護の全貌が不明である場合、E2EEの採用は安心材料にはならず、ただのまやかしに過ぎないかもしれません。 プライバシーを尊重する姿勢の強い提供者によるサービスでさえも十分なプライバシー保護がされていないケースがあることからも分かるように、プライバシー保護を保証するのは非常に難しいことです。まして、サービス提供者に少しでも魔がさせば簡単に侵すことのできるものでもあります。

E2EEの採用はプライバシー保護における「第一歩」であると考えられます。 E2EEを採用することで、サービス提供者は自身が私信を覗き見てはならないことを認識していると示すことができます。 それはプライバシーを保護する意思のないサービス提供者によるまやかしかもしれませんが、E2EEを採用しないのであればプライバシーを保護することができないため、その採用は「十分」ではないものの、「最低限必要」ではあります。

マルチデバイスE2EE

「安全な」E2EEを確立する簡単な方法は、端末が互いにしかない情報を用いて共通の秘密を構築し、通信をどこにも保存しないことです。

では第3、第4の端末を追加しようとしたらどうでしょう。 これらの端末は暗号を構成するのに必要な共通の秘密を知り得ません。そして、その共通の秘密や履歴を取得することもできません。 突如として複雑で困難な問題に直面します。

E2EEを台無しにして良いのであれば簡単に解決する方法があります。それは、やりとりを既に行った端末が共通の秘密や履歴を送信してしまうことです。 実際、WhatsAppやiMessageはそのような方法を取っています。

マルチデバイスのE2EEは、非常に複雑かつ困難であるか、もしくは使い勝手が悪いものです。

E2EEによってプライバシーが保護されることは極めて重要なことです。 しかし、利用者は現実的に考えなくてはなりません。 「必要としているのは、国家が人権を蹂躙するような事態から守られるプライバシー保護である」のかどうかということをです。

そうした非常にセンシティブなケース以外において気にするべきは、「十分に安全なやりとり」に過ぎません。 例えば経路暗号化で十分かもしれません。それだけで犯罪者があなたと誰かのやりとりを盗聴し、犯行に及ぶ危険を遠ざけることができます。

さらにそのメッセージが暗号化されて保存されていればより安心です。そうすれば悪意あるハッカーがサーバーを攻撃してそのやりとりを盗み出す心配しなくて済みます。さらに、その暗号鍵がサービス提供者でも容易にアクセスできないようになっていれば、悪意ある従業員が盗み出す危険性まで遠ざけることができます。

これらで求めているのは、プライバシーではなくセキュリティです。 セキュリティという面で言えば、LINEのパスコードロックのような、アプリへのアクセスに障壁を設ける機能も重要度は高いでしょう。

こうした問題についてはTelegramが非常に詳細で丁寧な解説を掲載しています

Signal プロトコル

前述のとおり、E2EEは非常に難しいものです。 このE2EEを非常に「うまく」実装したのが、Signalです。

Signalが開発したE2EEのプロトコルはオープンなものになっています。 そのため、Skype, Facebook Messanger, WhatsAppなど他のアプリもこの「よくできた、オープンなE2EE」を採用しています。

実際、このSignalプロトコルは非常によくできており、極めて堅牢で、かつマルチデバイスに対応したE2EEを実現しています。 Signalプロトコルは鍵交換アルゴリズムにEd25519を採用しており、プライバシー保護の透明性も高いものです。

しかし、プライバシー保護はE2EEにのみによって成り立つものではありません。 Signalプロトコルを採用している他のメッセージングアプリが、Signalと同等にプライバシー保護に優れているわけではない、ということに注意が必要です。

Signalはマルチユーザーやマルチデバイスのチャットにおいても優れた方法でE2EEを実現しています。 しかし、新しいデバイスや新しいユーザーが追加されたときにそれ以前の履歴を取得するのは、また別の方法が必要です。 その方法によってはE2EEを台無しにするリスクを持っています。

Signalは過去の履歴を追加しません。

XMPP

XMPPは通信プロトコルの名称で、「eメール」などと同じく「XMPPアプリ」というものがあるだけで、特定のサービスやアプリがあるわけではありません。

XMPPはアプリサーバーも、様々なものがあります。また、XMPPはeメール同様、異なるサーバーのユーザー間でもやりとりをすることができます。


  1. 総務省情報通信政策研究所の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」による。↩︎

  2. 韓国政府がメッセージングアプリに検閲を要求したという問題で、Kakao Talkはこれに応じたものの、LINEは表面的には応じなかった、という経緯があり、その後の経緯から「検閲に応じたのでは?」という疑いを晴らすことができていない、という状態です。↩︎

  3. LINEの利用情報の提供、及び第三者への提供を完全に拒否する方法がなく、また提供を拒否できるものに関してもアップロードされるより前に提供を拒否できるタイミングがないものもあります。↩︎

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